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東京地方裁判所 平成6年(行ウ)306号 判決

東京都世田谷区下馬五丁目二三番三号

原告

宮川輝彦

右訴訟代理人弁護士

藤井眞人

東京都世田谷区若林四丁目二二番一四号

被告

世田谷税務署長 渡辺洋

右指定代理人

大圖明

井上良太

銭谷覺

畑山茂樹

主文

一  被告が原告に対し平成元年三月六日付けでした原告の昭和六〇年分の所得税の更正処分のうち総所得金額が一四八二万五五四一円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定処分のうち右総所得金額を超える部分に対応する部分を取り消す。

二  被告が原告に対し平成元年三月六日付けでした原告の昭和六一年分の所得税の更正処分のうち総所得金額が一六五七万八一七〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定処分のうち右総所得金額を超える部分に対応する部分を取り消す。

三  被告が原告に対し平成元年三月六日付けでした原告の昭和六二年分の所得税の更正処分のうち総所得金額が二五〇四万二一三一円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定処分のうち右総所得金額を超える部分に対応する部分を取り消す。

四  原告のその余の請求を棄却する。

五  訴訟費用は、これを一〇分し、その四を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

事実及び理由

第一原告の請求

被告が原告に対し平成元年三月六日付けでした次の各処分を取り消す。

一  原告の昭和六〇年分の所得税の更正処分のうち総所得金額七三七万九〇〇〇円及び納付すべき税額(還付金の額に相当する税額)五四万五〇六〇円を超える部分並びに過少申告加算税賦課決定処分

二  原告の昭和六一年分の所得税の更正処分のうち総所得金額七二六万五〇〇〇円及び納付すべき税額(還付金の額に相当する税額)五四万四九六一円を超える部分並びに過少申告加算税賦課決定処分

三  原告の昭和六二年分の所得税の更正処分のうち総所得金額一〇一七万九二五七円及び納付すべき税額(還付金の額に相当する税額)四三万九六三〇円を超える部分並びに過少申告加算税賦課決定処分

第二事案の概要

本件は、司法書士業を営む原告の昭和六〇年分ないし昭和六二年分(以下「本件係争各年分」という。)の所得税について、被告が推計により原告の所得金額を計算して、各更正処分(以下、右各年分の所得税の更正処分をそれぞれ「昭和六〇年分更正処分」、「昭和六一年分更正処分」、「昭和六二年分更正処分」といい、これらを併せて「本件各更正処分」という。)及び各過少申告加算税賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」といい、本件各更正処分と併せて「本件各更正処分等」という。)を行ったところ、原告がこれを不服として、本件各更正処分のうち総所得金額及び納付すべき税額が原告の申告額を超える部分並びに本件各賦課決定処分の取消しを求めている事案である。

一  前提となる事実

(以下の事実のうち、証拠等を掲記したもの以外は、当事者間に争いがない事実である。)

1  当事者

原告は、東京都渋谷区宇田川町一一番二号の事業所(以下「原告事務所」という。)において司法書士業を営む、いわゆる白色申告の個人事業者である。

2  課税処分等の経緯(別表一ないし三参照)

(一) 確定申告

原告は、本件係争各年分の所得税について、各申告期限までに、次のとおり確定申告を行った(なお、以下の所得金額のうち、本件係争各年分における利子所得の金額及び分離短期譲渡所得の金額については、当事者間に争いがない。)。

(1) 昭和六〇年分

ア 総所得金額 七三七万九〇〇〇円

(事業所得七二四万九〇〇〇円、利子所得一三万円)

イ 納付すべき税額(還付金の額に相当する税額) 六五万四五六〇円

(2) 昭和六一年分

アa 総所得金額 七二六万五〇〇〇円

(事業所得七一四万五〇〇〇円、利子所得一二万円)

b 分離短期譲渡所得の金額 五九万円

イ 納付すべき税額(還付金の額に相当する税額) 五四万四九六一円

(3) 昭和六二年分

ア 総所得金額 一〇一七万九二五七円

(事業所得九九七万九二五七円、利子所得二〇万円)

イ 納付すべき税額(還付金の額に相当する税額) 五八万九六三〇円

(二) 修正申告

(1) 原告は、昭和六一年九月一二日、昭和六〇年分の所得税について、総所得金額については変更せずに、納付すべき税額(還付金の額に相当する税額)を五四万五〇六〇円とする修正申告を行った。

(2) 原告は、昭和六三年八月一五日、昭和六二年分の所得税について、総所得金額については変更せずに、納付すべき税額(還付金の額に相当する税額)を四三万九六三〇円とする修正申告を行った。

(三) 本件係争各年分の所得税についての調査及び本件各更正処分等

(1) 被告は、原告から提出された本件係争各年分の所得税の確定申告書の内容を検討したところ、本件係争各年分の事業の収入金額の伸びが大きいこと及び右各確定申告書に添付された事業所得の収支内訳書に関し、旅費交通費、通信費等の業務上当然必要と思われる経費項目欄に記載がないなど経費の内容が不明瞭であったことから、申告内容が適正であるか否かについて調査を行う必要があると認め、所部の安海幸男国税調査官(以下「安海係官」という。)に調査を命じた(乙六九ないし七二、証人安海幸男)。

(2) 安海係官は、昭和六三年八月二二日、同年九月八日、同年一一月一日及び同月一五日に原告事務所に臨場するなどして調査を行ったが、被告は、原告の本件係争各年分の所得金額を実額により算定することはできないとして、平成元年三月六日、次のアないしウ記載のとおり、原告の所得金額を推計して本件各更正処分等を行った。

ア 昭和六〇年分

a 総所得金額 一七四三万七四五五円

(事業所得一七三〇万八四五五円、利子所得一三万円)

b 納付すべき税額 三二〇万三四〇〇円

c 過少申告加算税 三四万円

イ 昭和六一年分

a〈1〉 総所得金額 二六〇六万五四六一円

(事業所得二五九四万五四六一円、利子所得一二万円)

〈2〉 分離短期譲渡所得の金額 五九万円

b 納付すべき税額 七九一万三八〇〇円

c 過少申告加算税 七八万二五〇〇円

ウ 昭和六二年分

a 総所得金額 三三六八万四三六五円

(事業所得三三四八万四三六五円、利子所得二〇万円)

b 納付すべき税額 一〇九三万九五〇〇円

c 過少申告加算税 一六二万一五〇〇円

(四) 不服申立て前置

(1) 原告は、本件各更正処分等を不服として、平成元年四月二六日、被告に対し異議申立てを行ったが、被告は、同年九月二八日付けで、右異議申立てをいずれも棄却する旨の決定をした。

(2) 原告は、右決定を経た後の本件各更正処分等をなお不服として、平成元年一〇月二六日、国税不服審判所長に対し審査請求を行ったが、同所長は、平成六年六月二〇日付けで、右審査請求をいずれも棄却する旨の裁決をした。

二  本件各更正処分等の根拠等に関する被告の主張

1  原告の本件係争各年分の事業所得の金額及びその計算根拠

被告が本訴において主張する原告の本件係争各年分の総所得金額(事業所得の金額)及びその計算根拠は、次のとおりである。

(一) 昭和六〇年分

右年分の事業所得の金額は、二六四二万六四一八円であり、その算出経過は次のとおりである。

(1) 総収入金額 六七四六万五九六三円

右金額は、原告の営む司法書士業に係る次の昭和六〇年分の登記申請業務に係る報酬金額(以下「登記報酬金額」という。)と登記申請業務に付随する収入金額(以下「登記付随収入金額」という。)との合計額である。

ア 登記報酬金額 五六五九万四二一四円

右金額は、被告別表1の1「昭和六〇年分総収入金額計算表」〈3〉記載の金額であり、この金額は、同別表〈1〉記載の被告が把握し得た原告の昭和六〇年分の年間取扱事件数二二四一件に、同別表〈2〉記載の同年分における原告の登記申請業務に係る一件当たりの平均報酬金額(以下「平均単価」という。)二万五二五四円を乗じることによって算出したものである。

イ 登記付随収入金額 一〇八七万一七四九円

右金額は、被告別表1の1「昭和六〇年分総収入金額計算表」〈5〉記載の金額であり、この金額は、原告の右ア記載の年間登記報酬金額のほかに登記申請業務に付随するものとして相手方に請求した謄本代金、旅費及び立会料等の収入金額である。右金額は、右ア記載の年間登記報酬金額に同別表〈4〉記載の登記報酬金額に対する登記付随収入金額の割合(以下「登記付随収入割合」という。)〇・一九二一を乗じることによって算出したものである。

(2) 同業者の平均特前所得率 三九・一七パーセント

右率は、原告と同様に東京都渋谷区宇田川町において司法書士業を営む青色申告の個人事業者で、かつ、原告と事業規模が類似する者(以下「同業者」という。)の昭和六〇年分の事業所得に係る総収入金額に対する特前所得(総収入金額から売上原価、一般経費、特別経費を控除した後の金額で、青色申告の特典を控除する前の金額をいう。)の金額の割合(以下「特前所得率」という。)の平均値(被告別表2の1参照。小数点五位以下四捨五入。以下同じ。)である。

(3) 特前所得金額 二六四二万六四一八円

右金額は、前記(1)記載の総収入金額に右(2)記載の同業者の平均特前所得率に乗じて算出したものである(一円未満四捨五入。以下同じ。)。

(4) 事業所得の金額 二六四二万六四一八円

右金額は、右(3)記載の特前所得金額と同額である。

(二) 昭和六一年分

右年分の事業所得の金額は、三一四一万一一三二円であり、その算出経過は次のとおりである。

(1) 総収入金額 八二七五万六一八六円

右金額は、原告の営む司法書士業に係る次の昭和六一年分の登記報酬金額と登記付随収入金額との合計額である。

ア 登記報酬金額 七〇二九万三二〇一円

右金額は、被告別表1の2「昭和六一年分総収入金額計算表」〈3〉記載の金額であり、この金額は、同別表〈1〉記載の被告が把握し得た原告の昭和六一年分の年間取扱事件数二六三三件に、同別表〈2〉記載の同年分における平均単価二万六六九七円を乗じることによって算出したものである。

イ 登記付随収入金額 一二四六万二九八五円

右金額は、被告別表1の2「昭和六一年分総収入金額計算表」〈5〉記載の金額であり、この金額は、昭和六〇年分と同様に、右ア記載の年間登記報酬金額に同別表〈4〉記載の登記付随収入割合〇・一七七三を乗じることによって算出したものである。

(2) 同業者の平均特前所得率 三八・五〇パーセント

右率は、同業者の昭和六一年分の特前所得率の平均値(被告別表2の2参照)である。

(3) 特前所得金額 三一八六万一一三二円

右金額は、前記(1)記載の総収入金額に右(2)記載の同業者の平均特前所得率を乗じて算出したものである。

(4) 事業専従者控除額 四五万円

右金額は、原告の妻宮川和枝(以下「和枝」という。)に係る所得税法五七条三項(昭和六二年法律第九六号による改正前のもの)所定の事業専従者控除額である(この金額については、当事者間に争いがない。)。

(5) 事業所得の金額 三一四一万一一三二円

右金額は、前記(3)記載の特前所得金額から右(4)記載の事業専従者控除額を控除した金額である。

(三) 昭和六二年分

右年分の事業所得の金額は、五一六九万八四一二円であり、その算出経過は次のとおりである。

(1) 総収入金額 一億二〇三〇万九二〇七円

右金額は、原告の営む司法書士業に係る次の昭和六二年分の登記報酬金額と登記付随収入金額との合計額である。

ア 登記報酬金額 九七二五万〇九九六円

右金額は、被告別表1の3「昭和六二年分総収入金額計算表」〈3〉記載の金額であり、この金額は、同別表〈1〉記載の被告が把握し得た原告の昭和六二年分の年間取扱事件数三二二六件に、同別表〈2〉記載の同年分における平均単価三万〇一四六円を乗じることによって算出したものである。

イ 登記付随収入金額 二三〇五万八二一一円

右金額は、被告別表1の3「昭和六二年分総収入金額計算表」〈5〉記載の金額であり、この金額は、昭和六〇年分と同様に、右(1)記載の年間登記報酬金額に同別表〈4〉記載の登記付随収入割合〇・二三七一を乗じることによって算出したものである。

(2) 同業者の平均特前所得率 四三・四七パーセント

右率は、同業者の昭和六二年分の特前所得率の平均値(被告別表2の3参照)である。

(3) 特前所得金額 五二二九万八四一二円

右金額は、前記(1)記載の総収入金額に右(2)記載の同業者の平均特前所得率を乗じて算出したものである。

(4) 事業専従者控除額 六〇万円

右金額は、原告の妻和枝に係る所得税法五七条三項(昭和六三年法律第一〇九号による改正前のもの)所定の事業専従者控除額である(この金額については、当事者間に争いがない。)。

(5) 事業所得の金額 五一六九万八四一二円

右金額は、前記(3)記載の特前所得金額から右(4)記載の事業専従者控除額を控除した金額である。

2  本件各更正処分の適法性

被告が本訴において主張する原告の本件係争各年分の総所得金額(事業所得の金額)は、右1記載のとおり、昭和六〇年分が二六四二万六四一八円、昭和六一年分が三一四一万一一三二円、昭和六二年分が五一六九万八四一二円であるところ、本件各更正処分に係る原告の総所得金額(事業所得の金額と利子所得の金額との合計額)は、別表一ないし三の「更正・決定」欄記載のとおり、昭和六〇年分が一七四三万八四五五円、昭和六一年分が二六〇六万五四六一円、昭和六二年分が三三六八万四三六五円であって、いずれの年分も被告が本訴で主張する右金額の範囲内であるから、本件各更正処分は適法である。

3  本件各賦課決定処分の適法性

原告は、保険係争各年分の所得税につき、いずれも過少に申告していたので、被告は、本件各更正処分より新たに納付すべきこととなった税額(国税通則法(以下「通則法」という。)一一八条三項により一万円未満の金額を切り捨てた金額。以下同じ。)を基礎として、次のとおり計算した過少申告加算税をそれぞれ賦課決定したものであるから、本件各賦課決定処分はいずれも適法である。

(一) 昭和六〇年分 三四万円

右金額は、昭和六〇年分更正処分により、原告が新たに納付すべきこととなった税額三七四万円に通則法六五条一項(昭和六二年法律第九六号による改正前のもの。以下、昭和六一年分についても同じ。)の規定に基づき一〇〇分の五の割合を乗じて算出した金額一八万七〇〇〇円と同条二項の規定に基づき、三八五万七九〇〇円(原告は、本件更正処分の前に修正申告書を提出しているため、同条一項に規定する納付すべき税額に累積増差税額を加算した金額である。別表一参照)のうち期限内申告税額に相当する税額である七八万八〇〇〇円を超える税額三〇六万円に一〇〇分の五の割合を乗じて算出した金額一五万三〇〇〇円との合計額である。

(二) 昭和六一年分 七八万二五〇〇円

右金額は、昭和六一年分更正処分により、原告が新たに納付すべきこととなった税額八四五万円に通則法六五条一項の規定に基づき一〇〇分の五の割合を乗じて算出した金額四二万二五〇〇円と同条二項の規定に基づき、同条一項に規定する納付すべき税額八四五万八七〇〇円のうち期限内申告税額に相当する税額である一二五万四七五〇円を超える税額七二〇万円に一〇〇分の五の割合を乗じて算出した金額三六万円との合計額である。

(三) 昭和六二年分 一六二万一五〇〇円

右金額は、昭和六二年分更正処分により、原告が新たに納付すべきこととなった税額一一三七万円に通則法六五条一項(昭和六二年法律第九六号による改正後のもの)の規定に基づき一〇〇分の一〇の割合を乗じて算出した金額一一三万七〇〇〇円と同条二項の規定に基づき、同条一項に規定する納付すべき税額一一五二万九一〇〇円のうち期限内申告税額に相当する税額である一八二万九九五〇円を超える税額九六九万円に一〇〇分の五の割合を乗じて算出した金額四八万四五〇〇円との合計額である。

三  争点及び争点に関する当事者の主張

本件の争点は、〈1〉本件各更正処分等を違法ならしめる違法な調査が行われたか否か(争点1)、〈2〉本件各更正処分に理由附記を欠く違法があるか否か(争点2)、〈3〉本件各更正処分について推計の必要性があったか否か(争点3)、〈4〉本件訴訟提起後に行われた反面調査の結果に基づき、本件各更正処分の適法性を主張することは許されるか否か(争点4)、〈5〉被告が主張する原告の本件係争各年分の所得金額に係る推計が合理性を有するか否か(争点5)。

右各争点に関する当事者の主張は、次のとおりである。

1  争点1(調査の違法性の有無)について

(原告の主張)

安海係官は、次の(一)、(二)記載のとおり、税務行政の基本方針である税務運営方針に明白に違反する違法な調査を行ったほか、昭和六三年一一月一五日に行われた調査の際には、原告が席を外している間に、原告が未だ同係官に提示していない領収書の控え等を書き写すという不当な行為を行っており、これらの違法・不当な調査に基づいて行われた本件各更正処分等は、課税処分の手続的な適法要件を欠くものとして違法というべきである。

(一) 税務運営方針において、税務調査に当たっては事前通知の励行に努めるべき旨定められているにもかかわらず、安海係官は、昭和六三年八月二二日、事前の通知もなく抜き打ち的に原告事務所に調査に来て、原告の業務を妨害した。

(二) 税務運営方針において、反面調査は客観的にみてやむを得ないと認められる場合に限って行うこととする旨定められており、しかも、昭和六三年九月八日に行われた二回目の調査で、安海係官は、原告に対し反面調査は行わない旨言明していたにもかかわらず、同係官は、卑劣にもその翌日に、取引銀行に対する反面調査を行って原告の信用を著しく傷つけた。

(被告の主張)

原告は、本件の調査にはその手続に違法があるから、本件各更正処分等も違法である旨主張するが、以下のとおり、原告の右主張は理由がないものである。

(一) 事前通知の要否について

調査の権限を有する税務職員の質問検査権の行使について、事前に被調査者に調査日時を通知することがその要件であると解すべき実定法上の根拠はなく、事前通知をするかどうかの判断は、権限を有する税務職員の合理的な裁量にゆだねられているところ、安海係官に右裁量権を逸脱した違法はない。

(二) 反面調査について

取引先等に対する反面調査を、質問検査権行使の一環として、いかなる時期に、いかなる方法で、どの程度行うかは、社会通念上相当な程度にとどまる限り、税務職員の合理的な裁量にゆだねられており、実定法上、いわゆる補充性の要件は要求されていないところ、安海係官に右裁量権を逸脱した違法はない上、同係官が原告に対し、原告の取引先への反面調査は実施しないと約束した事実はないのであるから、同係官が行った反面調査に違法性はない。

2  争点2(理由附記を欠く違法性の有無)について

(原告の主張)

憲法三一条の定める適正手続の保障の趣旨からいえば、納税者は、更正処分という不利益処分を課される前に、その内容と理由が告知され、反論の機会が与えられるべきであり、申告が青色か白色かを問わず、更正処分については理由が附記されるべきである。

しかるに、本件各更正処分には、結論に至る理由、根拠が附記されていなかったものであり、右各処分には理由附記を欠く違法があるというべきである。

(被告の主張)

いわゆる白色申告に係る更正には、処分の根拠となった理由を記載しなければならないとする法律上の規定はなく、その必要がないのであるから、本件各更正処分に理由附記を欠く違法があるとする原告の主張は失当である。

3  争点3(推計の必要性の有無)について

(被告の主張)

被告は、所部の安海係官をして原告の本件係争各年分の所得税の調査を行わせたが、以下のとおり、原告から右調査への協力が得られず、実額によって原告の本件係争各年分の所得金額を算定することができなかったため、推計の方法により右所得金額を算定せざるを得なかったのであるから、本件係争各年分の所得金額の認定について推計の必要性が存在していたことは明らかである。

(一) 原告は、昭和六三年八月二二日の調査の際、安海係官の帳簿書類の提示要求に対し、本件係争各年分について収入台帳を作成していたが、今は不明であり、また、昭和六三年分については作成していない旨述べ、しかも、同係官が、司法書士としてその記載を当然に義務づけられている事件簿の提示を求めたところ、原告は、司法書士には守秘義務があり、司法書士会に聞いてみなければ提示できない旨述べ、さらに、司法書士会に毎年報告する取扱事件年計報告書についても同様の理由で提示できない旨述べて、司法書士会に聞かなければ右書類の提示をすることができない理由などないにもかかわらずその提示を拒否し、結局、正当な理由もなく、収入金額及び必要経費に係る帳簿書類の提示を行わなかった。

(二) 原告は、昭和六三年九月八日の調査の際、調査に関係のない第三者の立会いに固執し、安海係官が行った再三の第三者の退席要求にも全く応じず、かつ、同係官が前回調査の際に作成を要請してあった収入明細表及びそれを裏付ける領収書の控え等の提示要求に対しても、三年分の収入明細表を作るとすると時間が足りない、領収書の控えについても不合理な部分のみ見せる旨述べ、結局、正当な理由もなく帳簿書類を提示しなかった。

(三) 原告は、昭和六三年一一月一日の調査の際、安海係官に対し、昭和六二年一月七日から同年三月三一日までの各日ごとの金額が羅列され、その日ごとに合計額が記載された売上集計表だけは提示したが、同係官に対し日々の合計額のみ書き写すことだけに同意し、右記載内容のすべてを書き写すこと及び同係官に右売上集計表を貸すことについては、正当な理由もなくこれを拒否し、さらに原告が領収書を特定すれば見せると述べたので、同係官が領収書を特定したにもかかわらず、その提示も拒否した。

(四) 原告は、昭和六三年一一月一五日の調査においても、安海係官に対し、本件係争各年分の一二月三一日以前の一週間分の収入明細表、従業員の給与に関する資料、昭和六二年分の不動産所得の収支内訳書のコピー及び氏名欄を隠した領収書の控えをコピーしたもの七枚を提示するにとどまった。

(原告の主張)

推計課税は、例外的、補充的なものであって、同方法をとらざるを得ないやむを得ない事情のもとでのみ許されるところ、本件においては、以下のとおり、被告が適法な調査を怠り、裁量権の適正な行使を逸脱し、かつ、信義則に反して原告との面接による調査を不当に打ち切り、約束に反して原告に重大なる不利益を与える反面調査を実施して本件各更正処分を行ったものであって、本件においては、推計によるべきやむを得ない事情は存在せず、推計の必要性がなかったことは明らかである。

(一) 原告は、安海係官の行う調査に対しては、一定の協力をしていた。

すなわち、原告は、多少の時間がかかってはいたものの、安海係官の求めに応じて資料を作成し、また、同係官が強く求めた領収証の控えについても、調査の際に机の傍に置いて提出の準備を整えていた。領収書の控えの相手方の氏名については、反面調査などの不利益を避けるため、氏名を伏せることを求めたにすぎず、一定の領収証の控えについては、前もって言ってくれれば写しをとって準備するか、対象を絞ってくれれば、直ぐに応じる旨の提案をしていた。

なお、被告は、調査の際の第三者の立会いにつき、原告が安海係官の退席要求に応じなかった旨主張するが、同係官は、本件の調査について、渋谷民主商工会(以下「民主商工会」という。)の事務局員らが立ち会うことを事実上認めて調査を行っていたのである。

(二) これに対し、安海係官は、前記1(原告の主張)記載のとおり、違法・不当な調査を行った上、昭和六三年一一月一五日に行われた調査において、原告が同係官の具体的な指示に従わなかったとの事実がないにもかかわらず、調査を一方的に打ち切ったものである。

4  争点4 (本件訴訟提起後に行われた反面調査の結果に基づき、本件各更正処分の適法性を主張することは許されるか否か)について

(原告の主張)

被告は、本件訴訟が提起された後である平成七年一月ころ、原告の数百名の取引先に対し八年ないし一〇年も前の取引について照会し、回答と領収書の写しの送付を求めるという反面調査(以下「本件反面調査」という。)を実施した。その結果、原告は、多くの取引先から問い合わせや抗議を受け、さらには、取引先であった金融機関からの信用を失い、原告の仕事量は従前の三分の二に減ってしまった。

被告は、本件反面調査の結果に基づき本件各更正処分が適法である旨主張しているが、以下のとおり、本件反面調査の結果に基づき本件各更正処分の適法性を主張することは許されないものというべきである。

(一) 課税処分の取消訴訟の訴訟物を、課税処分によって確定された税額の適否であるとする総額主義を採ると、税務署長が、いかなる理由によって税額を認定しようと、処分時に客観的に存在した税額を上回らなければ、課税処分は適法ということになる。その結果、課税処分を行う税務署長においては、金額だけに目が向いて、そこに至る推計の妥当性、理由、方法の是非に目が向かないので、課税処分がいい加減に行われやすくなる反面、本件反面調査のような不当な反面調査が実施され、納税者の信用が著しく棄損されるという重大な弊害がもたらされるものである。

このような弊害をもたらす総額主義は排除されるべきであり、課税処分の取消訴訟の訴訟物については、これを当該処分理由との関係における税額の適否であるとし、税務署長が処分時に認定した処分理由に誤りがあれば、仮に他に所得があったり、客観的な税額が当該処分による税額を上回っていたとしても、課税処分は違法として取消しを免れないとする争点主義を採るべきである。

したがって、被告は、本件訴訟提起後に行われた本件反面調査の結果に基づき、本件各更正処分の適法性を主張することは許されないものというべきである。

(二) 仮に課税処分の取消訴訟の訴訟物について総額主義を採るとしても、当該取引後八年ないし一〇年も経過した後に本件反面調査のような大規模な反面調査を行って、納税者に重大な不利益を与えることは信義則上問題があり、本件反面調査の結果に基づき、本件各更正処分の適法性を主張することは許されないものというべきである。

(被告の主張)

更正処分の取消訴訟における審理の対象は、更正処分によって確定された税額が総額において租税実体法によって客観的に定まっている税額の範囲内であるか否かであり、更正処分においていかなる理由により税額を認定したかは審理の対象ではない(総額主義)。したがって、更正処分の数額の根拠となる事実は、単なる攻撃防御の方法にすぎず、課税庁は、処分時の認定理由に拘束されることなく、訴訟の段階で、その後に新たに把握した事実を追加し、あるいは処分理由とした事実に換えて右事実を主張することによって、処分理由を差し替えることが可能であり、これは、少なくとも白色申告に対する更正処分の場合については、確立した判例である(最高裁昭和五〇年六月一二日第一小法廷判決・訴務月報二一巻七号一五四七頁等参照)。

本件反面調査には何ら違法性はなく、本件反面調査の結果に基づき本件各更正処分の適法性を主張することは当然に許されるものというべきである。

5  争点5(推計の合理性の有無)について

(被告の主張)

(一) 被告の推計の合理性

(1) 推計方法

被告の推計は、被告が反面調査等により把握し得たところの原告の司法書士業に係る平均単価に年間取扱事件数を乗じて年間登記報酬金額を算出し、さらに、右金額等を基に算出した年間登記付随収入金額を加算することにより原告の総収入金額を算定し、この総収入金額に原告と業種業態が類似する比準同業者の平均特前所得率を乗じて所得金額を算定したものである。

右総収入金額及び比準同業者の平均特前所得率の算定については、次の(2)で述べるとおり、その基礎資料には正確性が認められ、しかも、その算定については、すべて機械的に行われ、恣意性がないことから、被告の推計には合理性がある。

(2) 各数値の算出方法

被告が主張する原告の平均単価の算定方法、年間取扱事件数、年間登記付随収入金額の算出方法及び比準同業者の抽出方法は、それぞれ次のとおりである。

ア 平均単価について

被告は、被告が把握し得た原告が取引をしている金融機関八店に対する実地調査又は取引照会から原告の取引先七三三件を把握し、本件各更正処分に係る調査の際の資料から把握した原告の取引先三一件を含めた合計七六四件の原告の取引先に対し実地調査又は取引照会を行い、最終的に取引先一六七件について取引金額及び取引内容を把握した。その結果、被告が取引金額等を把握し得た原告の本件係争各年分の原告の登記申請業務件数は、昭和六〇年分二五八件、昭和六一年分三三六件及び昭和六二年分三五八件となり、その平均単価は、昭和六〇年分が二万五二五四円、昭和六一年分が二万六六九七円、昭和六二年分が三万〇一四六円となったものである。

したがって、被告が主張する原告の平均単価は、原告の取引先をできるだけ幅広く機械的にとった上で、その取引先の回答書に基づいて網羅的に算定されているのであるから、その算定方法に恣意性はなく、合理的に算定されているものである。

イ 年間取扱亊件数について

年間取扱事件数は、原告が東京法務局渋谷出張所に提出した本件係争各年分の一二月二七日又は同月二八日における登記申請書添付書類に付された受託番号でもって認定したもので、被告が把握し得た限りの件数であり、その認定方法には合理性がある。

ウ 年間登記付随収入金額について

年間登記付随収入金額は、原告の登記申請業務に付随するものとして原告が取引先に対して請求し支払を受けた謄本代金、旅費及び立会料等の合計額であり、その金額は、前記ア記載の反面調査によって把握した原告の取引先一六七件の回答書記載の中から、右項目に該当する「謄本等」、「旅費等」、「立会料」及び「その他」の項目に記載されている金額を合計して登記付随収入金額を算出した上で、右回答書記載の登記報酬金額に対する右登記付随収入金額の割合(登記付随収入割合)を算出し、これを年間登記報酬金額に乗じて算定したものである。

したがって、被告が算定した年間登記付随収入金額については、合理性がある。

エ 比準同業者の抽出方法について

比準同業者については、原告が東京都渋谷区宇田川町に事業所を有して、司法書士業を営む個人事業者であるところから、東京二三区内に納税地を有する個人事業者のうち、本件係争各年分ごとに次のaないしfの基準のすべてに該当する者(被告別表2の1ないし3参照)を抽出した。なお、右により抽出された比準同業者の中には土地家屋調査士等の兼業者は含まれていない。

a 司法書士業を営む者

b 東京都渋谷区宇田川町に事業所を有する者

c 所得税の申告を青色申告によっている者

d 本件係争各年分の総収入金額が次の範囲内である者(いわゆる倍半基準による抽出)

〈1〉 昭和六〇年分については、三三七三万二九八二円以上一億三四九三万一九二六円以下の者

〈2〉 昭和六一年分については、四一三七万八〇九三円以上一億六五五一万二三七二円以下の者

〈3〉 昭和六二年分については、六〇一五万四六〇四円以上二億四〇六一万八四一四円以下の者

e 年を通じて前記aの事業を継続している者

f 次の〈1〉及び〈2〉のいずれにも該当しない者

〈1〉 災害等により経営状態が異常であると認められる者

〈2〉 更正又は決定がなされている者で、当該処分について通則法若しくは行政事件訴訟法の規定による不服申立期間若しくは出訴期間の経過していないもの、若しくは当該処分に対して不服申立がされ、若しくは訴えが提起されて現在審理中であるもの

以上のとおり、被告は、本件係争各年分につき、右各抽出基準のすべてを満たしている者を同業者として漏れなく抽出したのであるから、右抽出に恣意が介在する余地はなく、かつ、抽出された同業者は原告と業種及びその事業規模が類似している青色申告者であるから、被告が採用した推計の方法は、これによって求められた数値を原告の本件係争各年分の真実の所得金額に近似するものとして認定するに足りる合理的なものである。

(二) 原告の主張に対する反論

(1) 平均単価について

原告は、被告の採用した平均単価は、その算定の基礎に報酬額の多かった三豊グループの事件が多く含まれていること、さらに、「抹消」や「住所変更」など単価の低いものが計算の基礎から外されているので、不当に高く算定されていると主張する。

しかしながら、原告は、登記内容を記録した事件簿により、「抹消」や「住所変更」を含めた実際の平均単価が算出できるにもかかわらず、その主張立証を行っておらず、平均単価が不当に高く算定されているという原告の主張は、具体的資料に基づくものではなく、何らの客観性も認められない。

これに対し、被告が算定した平均単価は、被告が反面調査において把握し得た限りの原告の取引先に対して取引照会文書の発送又は実地反面調査を行い、原告へ支払った登記報酬金額及び登記付随収入金額等の確認を求め、回答のあったものの中から領収書により明確に確認できるものをすべて抽出した結果であるから、合理性があるといえるのである。

したがって、原告の右主張は失当である。

(2) 年間取扱事件数について

原告は、被告が採用した年間取扱事件数の中には、事件とならなかった「欠番」、「取下げ(取消し)」及びサービスで無料で行ったものが含まれており、実際の年間取扱事件数は、被告の推計における年間取扱事件数から右欠番等の事件数を控除したものとすべきであると主張する。

しかしながら、原告は、事件簿から実際の取扱事件数を集計すればよいにもかかわらず、その実数の集計も右事件簿の提出もせずに、本件係争各年分ではない平成四年分ないし平成六年分の事件簿に記載の取扱件数等から、実質の平均事件数割合は九三・三九パーセントであると主張しているにすぎず、本件係争各年分の年間取扱事件数を何ら具体的に明らかにしていない。

しかも、被告が登記申請書添付書類に付された受託番号から認定した年間取扱事件数の中に仮に欠番等が含まれていたとしても、受託番号を付けない登記申請書もあること、また、受託番号は毎年一番から付していくところ、被告が主張する年間取扱事件数はその年の最後の受託番号ではないこと等をも勘案すると、原告の年間取扱事件数は、被告が主張する年間取扱事件数よりも多いことが十分推測されるのであるから、被告が把握できた範囲内の年間取扱事件数から右欠番等の事件数を控除すべきであるとする原告の右主張は失当である。

(3) 年間登記付随収入金額について

原告は、被告が推計した年間登記付随収入金額の「謄本等」、「旅費」、「立会料」などの中には、原告の立替金がかなり含まれているとして、右立替金を被告が算定した年間登記付随収入金額から控除すべきであると主張する。

しかしながら、原告は、そもそも謄本等の額を預り金と報酬部分とに明確に区分していないのであるから、かかる場合には、全額を収入金額に計上した上で、謄本代等の額を必要経費に計上すべきである。

また、原告によれば、本件係争各年分のうち、昭和六一年分及び昭和六二年分については、その受託票から年間の受取謄本代等を実額で算定できるにもかかわらず、原告はそれをせず、また、右受託票を証拠として提出せず、年間登記付随収入金額について具体的に算定した額を主張・立証していないのであって、原告の右主張は具体的資料に基づくものではなく、何らの客観性も認められない。

これに対し、被告が算定した年間登記付随収入金額は、前記(一)(2)記載のとおり、被告が把握し得た原告の取引先のすべてについてその金額を確認し、右金額を基に推計の方法により算定したのであるから、合理性があるといえるのである。

したがって、原告の右主張は失当である。

(三) 原告の主張する推計方法の不合理性等について

(1) 原告は、被告が行った推計に対して、原告が保管している本件係争各年分の約七割の領収書の控えに基づき行った原告独自の推計方法の方がより合理的であるとして、被告の推計には合理性がないと主張する。

(2) しかしながら、そもそも、事業所得の金額は、帳簿書類等の直接資料に基づき、総収入金額から必要経費を控除して実額により算定すること(実額課税)を原則とするものであり、推計課税は実額課税が不可能な場合にやむを得ず行われるものであること、申告納税制度の下において、納税者は、その所得金額の計算の基となる経済取引の実態を最もよく知っている者として、その申告の内容が正しいことを説明しなければならない立場にあることを考えると、原告は、本件係争各年分に係る原告自身の所得金額を争うには実額により反証すべきであり、原告独自の推計方法で本件各更正処分の適否を争うことは許されないというべきであり、原告の右主張は主張自体失当である。

また、右の点を別にしても、原告は、ただ単に、その推計の基礎件数が被告のそれよりも多いことのみをもって被告の推計を非難し、原告の推計の方がより合理的であると主張するにすぎないものである。しかしながら、一件当たりの平均報酬金額の算出のための基礎件数が原告の主張する推計方法の方が多いとしても、その基礎件数の抽出が作為的に行われたものであるならば、そもそも基礎件数の多寡を論ずることには全く意味がない。その他の点を含め、原告は、その推計の合理性を何ら立証しておらず、原告の右主張は実質的にみても失当である。

(原告の主張)

(一) 原告のように司法書士業を営む者の事業所得を正確に推計するためには、〈1〉報酬につながる事件数の把握、〈2〉適正な事件単価の算出、〈3〉その他の収入の算出、〈4〉実際には収入といえないものの排除、〈5〉経費の正しい推計が必要になるところ、右の観点からみて、被告の推計は、以下のとおり合理性を欠くものである。

(1) 本件各更正処分における推計について

調査の打切りが速すぎたために、被告が本件各更正処分を行うに当たり、いかにずさんな資料に基づいて不当な平均単価の計算をし不合理な推計をしたかについては、国税不服審判所長の裁決によっても指摘されているところであり、その推計が合理性を欠くものであることは明らかである。

(2) 本件訴訟における推計について

本件訴訟において被告が主張する推計には、〈1〉平均単価の算定の基礎とされた取引件数は原告の全体の取引の一割にすぎず、算定の基礎資料が少なすぎる、〈2〉被告が原告の取引先七六四件について行った照会等に対する回答率は、約二〇パーセントで、それらが全体を平均的に反映しているといえる根拠に乏しい、〈3〉平均単価の算定に当たり、「抹消」や「住所変更」など単価の低いものが計算の基礎から外されており、他方、一件当たりの報酬額が全体の中で高かった三豊グループなどの取引による報酬がかなり含まれ、平均単価が実際より高くなってしまっている(三豊グループの取引は全体の五パーセントなのに、回答の中では約三分の一を占めている。)、〈4〉原告が取引先に交付した領収書に記載された「謄本等」、「旅費」、「立会料」には、本来収入とすべきでない立替えの印紙代等が含まれている(その約二〇パーセントが実質的報酬である。)、〈5〉平均単価に乗ずる事件数の中には、実際には、約一割が事件とならなかった「欠番」及び「取消し」やサービスにより無料でしたものが含まれている(実際の事件数は、約九割である。)、〈6〉被告が行った経費の推計は、抽出した司法書士が他の業種を兼業しているかどうか、また事務所の所有、賃借の違い、所員の数や資格を考慮していないなど、不合理な点が多く、右推計は、到底合理的なものとはいえない。

したがって、課税処分の取消訴訟の訴訟物について総額主義を採ったとしても、被告が本件訴訟において主張する推計に基づく所得金額は、本件各更正処分の適法性を裏付ける根拠とはなり得ないものである。

(二)(1) 原告の本件係争各年分の所得に係る被告の推計が合理性のないものであることは、以下のとおり、原告保管の領収書の控えに基づいて算定した原告の事業所得金額に照らしても明らかである。

すなわち、原告別表記載のとおり、現在原告の手元に残っている本件係争各年分の約七割の領収書の控えを基に、〈1〉そこから「謄本等」などのうちから立替え印紙代を除いた実質的報酬額の合計を算出して、〈2〉これを領収書の控えのある取引の事件数で割って一件当たりの平均収入額を計算し、〈3〉さらに右平均収入額に右事件数から欠番等を引いて求めた実質的事件数を乗じて、合理的な総収入額を算定し、〈4〉更に所得率を乗じて、本件係争各年分の事業所得の金額を算出すると、右金額は、昭和六〇年分が一二三五万〇七一〇円、昭和六一年分が一四五三万五八六二円、昭和六二年分が二二〇三万六五六二円となり、これらに利子所得を加算しても、原告の総所得金額は、本件各更正処分による総所得金額よりも五〇〇万円から一〇〇〇万円も下回ることになるのである。

(2) 被告は、原告の右主張に対して、推計課税において推計の必要性が認められる場合には、納税者には実額反証しか許されない旨主張するが、被告の右主張は以下のとおり失当である。

すなわち、推計課税、実額課税とも、所得の認定方法の違いにすぎず、最終的に問題となるのは、真実の所得金額がいくらであるか、どの方法がより真実に近似しているかである。

原告は、領収書の控え等の保管整理を任せていた当時の所員により本件係争各年分の領収書の控え等を散逸かつ紛失され、領収書の控えが約七割しか残っていないため、やむを得ずこれを基礎として計算した事業所得金額を主張しているものであり、実額の概念を広く取れば、原告の右主張は「実額」の反証の主張になるものである。

仮に右所得金額が推計による実額に近似した金額であるとしても、被告が主張する推計課税の方法、結果に対して、その合理性を争うために、間接反証として、原告が推計による実額に近似した所得金額を主張することは許されると解すべきである。

第三当裁判所の判断

一  本件の調査等の経緯について

前記第二の一記載の事実と証拠(甲二、四(後記不採用部分を除く。)二八(同前)、二九(同前)、乙六九ないし七二、証人安海幸男、同右田暢子(同前)、原告本人(第一回)(同前))及び弁護の全趣旨によれば、次の各事実が認められ、甲四、二八及び二九の各記載並びに証人右田暢子及び原告本人(第一回)の各供述中右認定に反する部分は、右掲記の各証拠に照らし採用することができず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

1  世田谷税務署の熊井俊文統括国税調査官(以下「熊井統括官」という。)は、原告から提出された本件係争各年分の所得税の確定申告書の内容を検討したところ、本件係争各年分の事業の収入金額の伸びが大きいこと及び右各確定申告書に添付された事業所得の収支内訳書に関し、旅費交通費、通信費等の業務上当然必要と思われる経費項目欄に記載がないなど経費の内容が不明瞭であったことから、申告内容が適正であるか否かについて調査を行う必要があるものと認め、昭和六三年七月中旬ころ、部下の安海係官に対し調査をするよう指示した。

2  安海係官は、昭和六三年八月二二日午前一〇時一〇分ころ、予告なしに原告事務所に臨場し、原告に対して、身分証明書及び質問検査章を提示しながら、所属、氏名を名乗り、原告の本件係争各年分の取得金額の確認のため調査に赴いた旨を告げて、調査に協力するよう要請した。

そして、安海係官は、原告に対して、収入金額の計上方法、収入金額の決済方法、帳簿書類の作成及びその保存状況等の事業概況について質問したところ、原告は、事業の概略を説明するとともに、昭和六二年分の事業所得は元事務員に現金と書類を持ち去られたため概算で申告したこと、過去の資料については整理して保存していないので、本件係争各年分の収入金額を記録した帳簿(収入台帳)の所在は現在は不明であることなどを述べた。

この間、原告に五分か一〇分おきに頻繁に電話がかかってくる状態であり、その都度、聴取を中断せざるを得ない状況であったことから、安海係官は、調査日を改めて設けた方がよいと判断し、原告との間で次回の調査日時を昭和六三年九月八日午前一〇時とすることを合意し、原告に対し、次回調査時までに、本件係争各年分の収入明細表を作成し、その基となる領収書の控えを準備すること、本件係争各年分の必要経費に関する領収書を準備するとともに、右領収書に基づき必要経費の内容を再確認して、確定申告書に添付した収支内訳書を補完し、説明できるようにすること、不動産所得の収入と支出に関する書類を準備することなどを要請して、午後零時ころ原告事務所を辞去した。

原告は、安海係官が辞去した後、民主商工会の事務局員である右田暢子(以下「右田」という。)に連絡を取り、同女に対し、本件係争各年分の収支内訳書を穴埋めすることと領収書の控えに基づき原告の収入金額を集計することを依頼した。

3  安海係官は、昭和六三年九月八日午前一〇時ころ、原告事務所に臨場したところ、原告のほか、右田を含む民主商工会の事務局員及び会員ら男女合計五名が待機していた。安海係官は、原告に対して、調査に関係のない者の立会いは、公務員に課せられた守秘義務に触れるおそれがあることから認められない旨説明して、立会人の退席を求めたが、原告は、「必要な都度席をはずしてもらうので構わないではないか。」と述べ、さらに、立会人の立会いを認めるよう熊井統括官に電話をするなどして、右田らを立ち会わせることに固執したため、同係官は、調査を進展させるため、やむを得ず右田らを同席させたまま、原告に対し、前回調査の際に要請した本件係争各年分の収入明細表を提示するよう求めた。

原告は、右田に依頼して昭和六二年分の売上集計表を作成してあったが、安海係官の右提示要請に対し、「三年分の収入明細を作成することは約束していない。三年分の収入明細を作成するのでは時間が足りない。」旨述べて、その提示要請に応じなかった。

そこで、安海係官は、原告に対し、本件係争各年分の領収書の控え等の関係書類をすべて提示するよう求めたが、原告は、「全体をみて不合理な点があればその点の領収書の控えだけをみせるという約束ではなかったか。」などと述べて、関係書類の提示をしなかった。安海係官は、原告が主張するような約束はしていない旨述べて、関係書類をすべて提示するよう原告を説得したが、原告は、これに応じなかった。

安海係官は、このような状態の下では、原告からこれ以上調査に対する協力は得られないと判断して、原告に対し、協力が得られない以上、税務署としても独自に調査を進めざるを得ない旨説明したところ、原告は、同係官に対し、「反面調査を行うという意味か。」と述べて、その発言の趣旨を問うた。しかし、安海係官は、「宮川さんから調査の協力が得られない以上、税務署の方でも別のいろいろな方法で検討しなければなりません。」と答えるにとどめ、反面調査をするかどうかについては、明確に回答しないまま、午前一〇時五〇分ころ原告事務所を辞去した。

4  安海係官は、第二回目の調査において原告から調査に対する協力が得られなかったことから、昭和六三年九月九日、原告の取引銀行に対して、原告及び原告の家族の預金の残高照会を行うとともに、原告事務所の賃貸人に対する反面調査を行った。

これに対し、原告は、原告代理人に依頼して、被告に対し、安海係官が行った反面調査等の調査方法に抗議するとともに、今後の調査についての指導、監督等を要望する趣旨の内容証明郵便を同月二二日付けで発送した。

5  安海係官は、熊井統括官の指示により、昭和六三年一〇月一一日午前一一時四〇分ころ、原告事務所に電話をし、原告に対し、立会人なしで領収書の控え等を提示して調査に協力するよう要請したが、原告は、「立会人がいたらどうしてだめなのか。」、「領収書の控えを全部用意しろとは私の確定申告時の計算を認めていないんじゃないか。」、「お互いに言った言わないという問題があるから立会いが必要なんだ。」などと自己の主張を繰り返すだけで、同係官の調査に協力する姿勢を示さなかったばかりか、「あんたでは話にならない。上司を出せ。」、「電話をくれるよう約束しろ。」とまくし立てるため、同係官は、原告に対し、電話の約束はできないが上司には話をしておく旨伝え、午後零時ころ電話を切った。

6  藤井統括官は、昭和六三年一〇月一七日午前九時二〇分ころ、原告事務所に電話をし、原告に対して、調査の進展に協力してもらいたい旨の要請を行い、次回調査日時を、同年一一月一日午前一〇時とすることを原告と約束した。

7  安海係官は、昭和六三年一一月一日午前一〇時ころ、原告の事業所に臨場したところ、前回と同様に、原告のほか、右田を含む民主商工会事務局員及び会員ら五名が待機していた。安海係官は、原告に対して、調査に関係のない第三者の立会いは公務員に課せられた守秘義務に触れるおそれがあるので認められない旨改めて説明して、その退席を求めたが、原告は、「守秘義務に関係する場合は席をはずさせる。」と述べてこれに応じなかったため、同係官は、とりあえず調査を進めることとし、同年八月二二日の調査の際に依頼した書類を提示するよう求めた。

原告は、この日、本件係争各年分の売上げを集計した売上集計表を右田に依頼して作成し準備していたが、右提示要請に対し、このうち、昭和六二年の一月から三月までの分を安海係官に提示した。安海係官が確認したところ、右売上集計表には、同年一月七日から同年三月三一日までの各日について領収書一枚ごとの報酬額や各日ごとの報酬額の合計額等が記載されていた。しかし、右売上集計表では、記載された金額がだれからどのような仕事に基づいて受領したものであるのか不明であったため、安海係官は、原告に対して、右売上集計表の基となった領収書の控えを含め本件係争各年分のすべての領収書の控えを提示するよう要請したところ、原告は、「どの分の領収書の控えが必要なのか、特定すれば見せる。」と発言した。そのため、安海係官は、調査の進展を図るため、原告の要求に応じて日を特定して領収書の控えの提示を求めたが、原告は、指定された日の領収書の控えをすべて提示するには時間がかかるので、後日提示する旨述べて、これを提示しなかった。

また、安海係官は、原告に対し、右売上集計表の貸与を申し入れたが、これを拒否されたので、その記載内容を書き写そうとしたところ、原告は、各日ごとの合計額のみを書き写すことだけを認め、記載内容のすべてを書き写すことには同意しなかった。

このような状況から、安海係官は、他の書類について提示を求めても十分な協力は得られないだろうと考えて、その日の調査を打ち切ることとし、原告に対して、次回調査時までにとりあえず本件係争各年分の一二月三一日以前一週間分の収入明細表を作成し、右期間の収入に係る領収書の控えを準備するとともに、原告事務所に勤務する従業員の給与に係る一人別徴収簿も準備すること、また、不動産賃貸に係る収入、支出の明細表及び支出に係る必要経費の領収書を準備し、これらの書類を次回調査時に提示するよう要請し、次回調査日時を昭和六三年一一月一五日午前一〇時としたいと申し出たところ、原告はこれを了承した。

8  安海係官は、昭和六三年一一月一五日午前一〇時ごろ、原告事務所に臨場したところ、原告のほかに、前回と同様に民主商工会の関係者が待機していた。安海係官は、従前と同様に、原告に対して、調査に関係のない第三者の退席を求めたが、原告は、「領収書の控えの中身を調べるときのみ退席させる。」と述べ、これに応じなかったため、同係官は、とりあえず調査を進めることとし、前回の調査の時に依頼した書類を提示するよう求めた。

これに対し、原告は、右田に依頼して作成した本件係争各年分の一二月三一日以前一週間分の収入を集計した売上集計表を提示したので、安海係官は、原告の同意を得てこれを書き写した。そして、安海係官は、原告に対して、右売上集計表の基になった領収書の控えを提示するよう求めたが、原告は、取引を特定すれば見せると述べたため、同係官は、やむを得ず七件分の取引を特定して、該当する領収書の控えを提示するよう求めたところ、原告は、別室において、該当する領収書の控えについて相手方の氏名・名称を伏せて一枚ずつコピーを作成して、合計七枚の領収書の控えのコピーを提示したが、右コピーの提示にかなりの時間がかかったため、安海係官は、右のような原告の調査への協力の仕方では、調査に要する時間からみて、本件係争各年分の所得金額を実額によって確認することは到底できないものと考え、推計によって課税を行うしかないと判断した。

そこで、安海係官は、原告に対し、原告の協力が得られないので推計によって課税を行うしかない旨説明して、年間の取扱事件数を尋ねたところ、原告は、同係官が推計によって課税を行おうとしていることに抗議し、右事件数について回答しなかった。また、立会人らは、安海係官が、その日、原告が領収書の控えのコピーを作成するために席を外している間に原告がいすの上に置いていた従業員の氏名と一年間の給与額を記載したメモを原告の了承があるものと考えてその内容を書き写したことに抗議し、同係官に対し、書き写したものを置いていくように求めたが、同係官は、書き写したものを置いていく必要はないとして、これを拒否し、午後零時一〇分ころ、原告事務所を辞去した。

9  安海係官は、昭和六三年一一月一七日午前九時二〇分ころ、原告事務所に電話をし、原告に対して、立会人を退席させた上で調査に協力してほしいこと、収入金額を確認できる資料の保存がないのであれば、本件係争各年分の収入金額は推計せざるを得ないこと、そのために年間の取扱事件数を教えてもらいたいことなどを伝えた。

これに対し、原告は、「立会人の排除には応じられない。」、「年間の取扱事件数は、司法書士会とも相談したが教えられない。」などと述べて、安海係官の右要請には応じようとしなかった。

このような状況から、安海係官は、原告から調査に対する協力と理解は得られないと判断し、原告に対して、税務署で独自に所得金額を算出する旨を伝え、電話を切った。

10  その後、安海係官は、法務局において原告が提出した登記申請書に付された受託番号を調査したり、取引先への反面調査を行うなどして調査を進め、平成元年一月一七日午前一〇時三〇分ころ、それまでの調査の経過を伝えるとともに、再度、調査に対する協力を求めるために、予告なしに原告事務所に臨場した。

安海係官は、原告に対して、調査によって把握した年間取扱事件数などからすると、原告の本件係争各年分の実際の収入金額は確定申告額と大分隔たりがあることになる旨を指摘し、原告の平均単価及び取扱事件数を教えてくれるよう要請したが、原告は、「自分で計算してみたのでも収入、経費が違っていた。」などと申し立てたが、前回と同様、同係官の右要請には応じようとしなかった。

このような状況から安海係官は、原告に対して、年間取扱事件数だけではなく平均単価についても税務署で独自に調査せざるを得ない旨を伝えたところ、原告は、「認めない。」、「詫び状を持ってくるまで、応じない。」などと述べて、調査に協力する姿勢を示さなかったので、同係官は、これ以上原告を説得しても調査に対する協力は得られないと判断し、午後零時一〇分ころ原告事務所を辞去した。

11  安海係官は、平成元年二月二七日午前一一時一〇分ころ、原告事務所に電話をし、原告に対して、調査額を説明する旨を伝えたところ、原告は、「上司と一緒に来い。」などと発言し、調査額については聞こうとしなかった。安海係官は、確定申告の時期でもあり、出張はできない旨を説明したところ、原告が、「署に行く。」と述べたため、翌日までに来署するよう伝えた。

12  原告は、平成元年二月二八日午後五時一〇分ころ、世田谷税務署に電話をし、安海係官に対し、翌日同署を訪れたい旨話したが、同係官は、翌日は確定申告の面接の担当になっているので会うことはできないことを伝え、調査額については通知するので、納得がいかない場合は異議申立てができることも説明したところ、原告から調査額を明らかにするよう求められたので、本件係争各年分の調査額の説明を行うとともに、右金額で修正申告を行うのであれば、連絡して欲しい旨伝えた。

13  その後、原告から修正申告を行う旨の連絡もなかったことから、被告は、原告の本件係争各年分の事業所得の金額を推計により算定し、本件各更正処分等を行った。

二  争点1(調査の違法性の有無)について

1  原告は、安海係官が行った調査には違法・不当な点があり、かかる違法・不当な調査に基づいて行われた本件各更正処分等は、課税処分の手続的な適法要件を欠くものとして違法である旨主張する。

2  しかしながら、原告の右主張は採用することができない。その理由は、次のとおりである。

(一) 原告は、安海係官が昭和六三年八月二二日に事前通知をすることなく調査を行ったのは違法である旨主張する。

しかしながら、所得税法二三四条により税務署等の調査の権限を有する税務職員には納税義務者等に対する質問検査権が認められているところ、事前に被調査者に調査日時を通知することは、右質問検査権の行使の要件とはされておらず、事前通知をするかどうかの判断は、調査の権限を有する税務職員の合理的な裁量にゆだねられているというべきである(最高裁昭和四五年(あ)第二三三九号同四八年七月一〇日第三小法廷決定・刑集二七巻七号一二〇五頁参照)。そして、本件において、安海係官が昭和六三年八月二二日に事前通知をすることなく調査を行ったことについて、同係官に右裁量権の範囲の逸脱又は濫用があったものと認めることはできないから、右調査をもって、違法な調査ということはできない。

(二) 原告は、取引先への反面調査はやむを得ない場合に補充的に行われるべきであり、また、安海係官が、原告に対し、原告の取引先への反面調査は実施しないと約束したにもかかわらず、同係官は反面調査を行ったものであり、右調査は違法である旨主張する。

しかしながら、取引先に対する反面調査を、質問検査権行使の一環として、いかなる時期に、いかなる方法で、どの程度行うかは、質問検査の必要があり、かつ、その必要性と納税義務者等の私的利益との衡量において社会通念上相当な程度にとどまる限り、調査の権限のある税務職員の合理的な裁量にゆだねられており、実定法上、いわゆる補充性の要件は要求されていないものである(前掲最高裁昭和四八年七月一〇日第三小法廷決定参照)。そして、前記認定のとおり、安海係官は、第二回目の調査において調査に対する原告の協力が得られなかったことから取引銀行等に対する反面調査を実施したものであり、また、同係官が原告の取引先への反面調査を実施しない旨約束した形跡はないから、同係官に右裁量権の範囲の逸脱又は濫用があったものと認めることはできず、右反面調査をもって違法な調査ということはできない。

(三) さらに、原告は、安海係官が昭和六三年一一月一五日に行われた調査の際に、原告が席を外している間に、原告が未だ同係官に提示していない領収書の控え等を書き写すという不当な行為を行った旨主張する。

そこで、右主張について検討するに、前記認定のとおり、安海係官が昭和六三年一一月一五日の調査の際に、原告が領収書の控えのコピーを作成するために席を外している間に、原告がいすの上に置いていた従業員の氏名と一年間の給与額を記載したメモについて、原告の了承があるものと考えてその内容を書き写した事実は認められる(ただし、原告が主張するように、同係官が領収書の控えを書き写した事実を認めるに足りる証拠はない。)。しかしながら、右メモは、安海係官が同月一日に行われた前回の調査の際に、原告に対し、次回の調査(同月一五日の調査)の際に準備して提示するよう求めていた資料であり、同係官が、原告の了承があるものと考えて、原告が席を外している間にその内容を書き写したとしても、これをもって直ちに本件各更正処分等を違法ならしめる違法な調査があったものということはできない。

そして、本件において、他に、本件各更正処分等を違法ならしめる違法な調査が行われたことを認めるに足りる証拠はない。

三  争点2(理由附記を欠く違法性の有無)について

1  原告は、憲法三一条の定める適正手続の保障の趣旨からすれば、更正処分には理由が附記されるべきところ、本件各更正処分には、結論に至る理由、根拠が附記されていなかったから、右各処分には理由附記を欠く違法がある旨主張する。

2  しかしながら、青色申告書が係る更正処分の場合(所得税法一五五条二項参照)と異なり、いわゆる白色申告書に係る更正処分について、更正通知書に理由を附記しなければならない旨を定めた法律の規定はなく、また、憲法三一条が直接に、行政上の不利益処分である更正処分に理由が附記されるべきことを保障していると解することもできない。

したがって、本件各更正処分に理由附記を欠く違法がある旨の原告の前記主張は、その前提を誤るものであり、失当というべきである。

四  争点3(推計の必要性の有無)について

1  所得金額は、収入金額から必要経費を控除して計算されるものであり、その計算は、本来、直接資料に基づき実額により行われるべきものであって、所得税法においても、実額課税を当然の原則としているものと解される。しかしながら、〈1〉納税義務者が収支を明らかにする帳簿書類を備え付けていないこと、〈2〉帳簿書類の備え付けがあっても、その記載内容が不正確であること、〈3〉納税義務者が税務署長の行う税務調査に非協力的であることなどにより、所得金額を実額で算定することが不可能又は著しく困難な場合には、各種の間接資料を用いて所得金額を推計して課税することも許容されるべきであり、所得税法一五六条は、このことを明らかにしたものである。他方、右のような推計の必要性がないにもかかわらず、推計により所得金額を計算して更正処分を行った場合には、当該更正処分は、手続上の適法要件を欠くものとして違法になるものというべきである。

2  これを本件各更正処分についてみれば、前記一で認定したとおり、安海係官は、昭和六三年八月二二日に行った第一回目の調査において、原告に対し、調査の趣旨を伝えて調査への協力を求め、次回調査時までに本件係争各年分の収入明細表を作成することやその基となる領収書の控え等を準備することなどを要請し、その後においても、再三にわたり、原告に対し、本件係争各年分の所得金額を算定するために帳簿書類等の提示を求め、また、調査時に調査に関係のない第三者を立ち会わせることは、公務員の守秘義務に反するおそれがあるとして、その退席を求めたにもかかわらず、原告は、第三者の退席要求については一貫してこれを拒否し続け、帳簿書類等の提示についても、極めて部分的な資料を限定的に提示するにとどまったものであり、その結果、被告において、原告の本件係争各年分の所得金額を実額で算定することができなかったものと認められるから、本件各更正処分については、推計の必要性があったものというべきである。

これに対し、原告は、安海係官の行う調査に対して原告が一定の協力をしていたにもかかわらず、同係官が違法・不当な調査を行い、調査を一方的に打ち切ったもので、本件各更正処分については推計の必要性がなかった旨主張するが、前記一で認定した調査の経緯に照らせば、原告の右主張は到底採用することはできない。

五  争点4(本件反面調査の結果に基づき本件各更正処分の適法性を主張することは許されるか否か)について

1(一)  原告は、課税処分の取消訴訟の訴訟物は、当該処分理由との関係における税額の適否であるとし、税務署長が処分時に認定した処分理由に誤りがあれば、仮に他に所得があったり、客観的な税額が当該処分による税額を上回っていたとしても、課税処分は違法として取消しを免れないというべきであるから、被告は、本件訴訟提起後に行われた本件反面調査の結果に基づき本件各更正処分の適法性を主張することは許されない旨主張する。

(二)  しかしながら、課税処分の取消訴訟における実体上の審判の対象(訴訟物)は、当該課税処分によって確定された税額の適否であり、税務署長が処分時に認定した処分理由に誤りがあったとしても、これにより確定された税額が総額において租税法規によって客観的に定まっている税額を上回らなければ、当該課税処分は適法というべきものである(最高裁平成二年(行ツ)第一五五号同四年二月一八日第三小法廷判決・民集四六巻二号七頁参照)。そして、右の考え方を前提とすれば、処分をするに当たって理由附記が求められている青色申告書に係る更正処分の取消訴訟の場合には別途の考慮を要するものの、少なくとも、このような理由附記が法律上求められていない、いわゆる白色申告書に係る更正処分の取消訴訟においては、右処分の正当性を維持する理由として、更正処分の段階において考慮されなかった事実を訴訟において主張することも、原則として自由に許されるものというべきである(最高裁昭和五〇年(行ツ)第一〇号同年六月一二日第一小法廷判決・訟務月報二一巻七号一五四七頁参照)。

したがって、課税処分の取消訴訟の訴訟物を当該処分理由との関係における税額の適否であるとする考え方を前提に、本件訴訟提起後に行われた本件反面調査の結果に基づき本件各更正処分の適法性を主張することは許されないとする原告の前記主張は、その前提を誤るものであり、失当というべきである。

2(一)  原告は、課税処分の取消訴訟の訴訟物について総額主義を採るとしても、当該取引後八年ないし一〇年も経過した後に本件反面調査のような大規模な反面調査を行って、納税者に重大な不利益を与えることは信義則上問題があり、本件反面調査の結果に基づき、本件各更正処分の適法性を主張することは許されない旨主張する。

(二)  そこで、原告の右主張について検討する。

(1) 証拠(甲八ないし一一、乙七三、七四、証人小宮山真佐路)及び弁論の全趣旨によれば、本件反面調査の経緯等は、以下のとおりであると認められる。

ア 本件訴訟が提起された当時、東京国税局課税第一部国税訟務官室に勤務していた小宮山真佐路事務官(以下「小宮山事務官」という。)は、本件訴訟において被告指定代理人となることを命じられ、同事務官において、本件各更正処分の内容を検討したところ、右各処分は、原告の本件係争各年分の収入金額を算出するために原告から提示のあった取引先に係る書類等から把握した取引金額等を基に、原告の登記申請業務に係る一件当たりの平均報酬額(平均単価)の計算をしていたが、その対象となった取引先が一年のうち一部の時期に取引があったものに集中しており、また、その件数も昭和六〇年分八件、昭和六一年分一八件、昭和六二年分二七件と少なく、その結果、国税不服審判所長の裁決においても、被告が採用した平均単価はその算出過程からして合理性が乏しいと判断されていたものであった。そのため、小宮山事務官は、他の被告指定代理人とも協議して、課税の根拠を主張するに当たり、可能な限り原告の取引先を多数把握し、より多くの原告が取り扱った事件に係る取引金額を基にした収入金額を推計して主張する必要があると判断した。

イ そこで、まず、小宮山事務官は、平成六年一一月中旬ころから原告の取引先を把握するため、本件各更正処分及び異議決定に係る調査により把握した原告の取引金融機関六店及びこれらの金融機関の調査中に把握した他の金融機関二店の合計八店の実地調査及び取引照会を行い、原告の取引先として七三三件の個人ないし法人を把握した。そして、小宮山事務官は、右調査により把握した七三三件、本件各更正処分の調査の際の資料から把握した取引先三一件の合計七六四件のうち、七五九件に対しては取引照会文書を郵送し、五件(三豊恒産株式会社、大友ハウジング株式会社、株式会社更科土屋商店、大格建設株式会社及び伸友建設株式会社のいわゆる三豊グループ)に対しては実地反面調査を行った。その結果、小宮山事務官において回答の集計を行うまでに四五八件から回答があり、同事務官は、そのうち、取引金額が確認できた一六七件分について、本件係争各年分ごとに取引件数や報酬金額等を集計して平均単価等を算出し、これを基にして、被告は、前記第二の二記載のとおり、原告の本件係争各年分の事業所得の金額を推計し、本件各更正処分が適法である旨主張している。

(2) ところで、取引先に対する反面調査を、質問検査権行使の一環として、いかなる時期に、いかなる方法で、どの程度行うかは、質問検査の必要があり、かつ、その必要性と納税義務者等の私的利益との衡量において社会通念上相当な程度にとどまる限り、調査の権限のある税務職員の合理的な裁量にゆだねられていることは、前記二2(二)で説示したとおりであり、当該課税処分の取消訴訟が提起された後に、当該課税処分の基礎となる事実関係等ついて反面調査を行うことが禁じられているわけではない。

右の観点から、本件反面調査についてみるに、本件反面調査のように取引終了後相当期間が経過した過去の取引について大規模な反面調査が行われた場合には、当該納税義務者がその調査の対象となった取引先から問い合わせや抗議を受け、あるいは、その信用を失って今後の取引関係を打ち切られるなどして少なからぬ事実上の不利益を被るおそれがあることは否定できない(原告は、現にそのような不利益を被っている旨主張している。)。しかしながら、他方において、原告の本件係争各年分の所得金額について合理性の高い推計を行うためには、可能な限り原告の取引先を多数把握し、より多くの原告が取り扱った事件に係る取引金額を調査する必要があったことを考えると、本件反面調査が調査の権限のある税務職員に与えられた裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用した違法な調査であるということはできず、したがって、また、被告が本件反面調査の結果に基づき本件各更正処分の適法性を主張することが信義則に反するものということもできない。

3  以上のとおりであるから、被告が本件反面調査の結果に基づき本件各更正処分の適法性を主張することは許されるものというべきである。

六  争点5(推計の合理性の有無)について

1  推計課税は前記四1で説示したとおり、所得金額を実額で算定することができないときに、やむを得ず間接資料により所得金額を推計するものであるから、推計の方法は、真実の所得金額に近似した数値を算出し得る合理的なものでなければならない。もとより、この場合において、推計によって算出した所得金額ができるだけ真実の所得金額に近似することが望ましいことはいうまでもないが、推計というその方法の性質上、推計課税において求められる「推計の合理性」とは、推計方法が一般的にみて合理的であり、真実の所得金額と合致する蓋然性があると認められれば足りるものと解するのが相当である。

2  そこで、以下、右の観点から、被告の主張する推計の合理性の有無等について検討する。

(一) 前記第二の一1記載の事実と証拠(甲一八の1ないし696、一九の1ないし4、一九の6ないし858、二〇の1ないし899、二〇の901ないし914、二二、二六、二七、三七の1、2、三八の1、2、三九の1ないし5、四〇ないし四四、乙一、二、三の1、2、四、五、六及び七の各1、2、八ないし一二、一五の1、2、一六、一七、一八の1ないし5、一九、二〇の1、2、二二ないし二五、二七、六九ないし七二、証人安海幸男、原告本人(第二回))によれば、昭和六〇年ないし昭和六二年当時の原告の事業の概況は、以下のとおりであった認められる。

(1) 原告は、東京都渋谷区宇田川町所在の事務所を賃借して司法書士業を営んでいた。なお、原告は、土地家屋調査士等の兼業は行っていなかった。

(2) 原告は、短期間業務に従事していた者を含め、年間五名以上の事務員を使用し、給料を支払っていたが、事務員の数は変動しており、年間を通じて一定しているわけではなかった。また、原告は、事務所の賃料として年間約二五〇万円を支払っていた。

(3) 原告の主たる収入は登記申請業務に係る報酬であり、そのほか登記申請業務に付随して相手方から支払を受ける謄本等の代金、旅費、立会料等が原告の収入となっていた。

(4) 原告事務所においては、登記申請の依頼を受けた時に受託票を作成し、その後、登記申請書がほぼ完成した段階で、依頼者の住所、氏名、登記の種別、物件の所在、地番、家屋番号等を事件簿に記載することとしていた。そして、原告事務所においては、受託事件を事件簿に記載した段階で、申請する登記の件数ごとに暦年に従って一番から始まる受託番号(事件番号)を受託事件に付して、これを事件簿に記載したほか、当時の東京司法書士会の会則に従って、その受託番号を登記申請書に付記していた。なお、事件簿には、以上の事項のほか登記申請日、登録免許税額が記載されていたが、報酬額については記載されていなかった。

(5) 原告事務所においては、右により受託番号を付した事件についても、依頼者の都合等により登記申請をすることなく終わった事件(いわる「欠番」の事件)や登記申請をした後、登記完了前に依頼者の都合により登記申請を取り下げた事件(いわゆる「取下げ」の事件)があり、これらの事件については、依頼者に対して報酬を請求することはしていなかった。

(6) 原告事務所においては、取引先に交付する領収書に、登記の種別、報酬額、登録免許税額、旅費、謄本等の代金等を記載する取扱いをしていたが、謄本等の代金には、その謄本等の請求に必要な印紙代も含めたものが記載され、その印紙代について区別して記載されることはなかった。

(二) 被告が本件訴訟において主張する推計方法は、被告が反面調査等により把握し得たところの原告の登記申請業務に係る平均単価に年間取扱事件数を乗じて年間登記報酬金額を算出し、さらに、右金額等を基に算出した年間登記付随収入金額をこれに加算することにより原告の総収入金額を算定し、この総収入金額に原告と業種、事業規模が類似する比準同業者の平均特前所得率を乗じて所得金額を算定するというものであるが、右(一)で認定した原告の事業の概況に照らすと、右推計方法は、後述のとおり、その推計に用いられた数値の一部については問題があるものの、その基本的な方法自体は、原告の事業所得の金額を推計する方法として合理性を有するものと認められる。

(三) そこで、以下、右の推計方法を前提に、原告の年間取扱事件数、平均単価等について別個に検討する。

(1) 年間取扱事件数について

弁論の全趣旨によれば、被告は、被告別表1の1ないし3記載のとおり、各年の一二月二七日又は同月二八日に原告が行った登記申請の申請書に付された受託番号(事件番号)をもって本件係争各年分の年間取扱事件数とすることとし、昭和六〇年分を二二四一件、昭和六一年分を二六三三件、昭和六二年分を三二二六件と認定したことが認められるところ、この被告の年間取扱事件数の認定方法は、前記認定の原告事務所における受託番号(事件番号)の取扱いに照らし、合理性を有するものと認められる。なお、証拠(甲三七及び三八の各1、2、三九の1ないし5、原告本人(第二回))によれば、原告の本件係争各年分の事件簿に記載された最後の受託番号は、昭和六〇年分が二二四六番、昭和六一年分が二六三九番、昭和六二年分が三二三三番と認められるから、被告が認定した本件係争各年分の年間取扱事件数は、右各事件簿の受託番号から認められる原告の年間取扱事件数を五件ないし七件下回るものである。

ところで、前記認定のとおり、原告事務所において受託番号を付した事件の中には、依頼者に対して実際に報酬を請求することのない「欠番」の事件や「取下げ」の事件も含まれているところ、原告は、平均単価に年間取扱事件数を乗じて年間登記報酬金額を算出するに当たっては、被告認定の前記年間取扱事件数から「欠番」や「取下げ」の事件数を控除すべきであり、これを控除せずに年間登記報酬金額を算出した被告の推計には合理性がない旨主張する。

しかしながら、原告は、本件係争各年分において「欠番」及び「取消し」の事件数がどれだけあったかについては、本件係争各年分の事件簿等の直接的な資料に基づいて主張・立証をしているわけではなく、ただ単に、平成四年分ないし平成六年分における「欠番」及び「取消し」の事件数を除いた実質的な事件数の年間取扱事件数全体に占める割合(以下「実質事件率」という。)の平均値が〇・九三三九であるとして、本件係争各年分においてもそれぞれの年間取扱事件数に右割合を乗じて実質的な事件数を求めるべきであると主張しているにすぎない。思うに、本件係争各年分において「欠番」及び「取消し」の事件数が具体的にどれだけあったかについては、被告においておよそ知り得ない事柄であり、かかる事件数については、原告に安易な推計を許すよりも、本件係争各年分の事件簿等の直接的な資料に基づいて主張・立証をさせることが訴訟当事者間の公平にかなうものというべきである。このことに加え、原告の主張によっても、平成四年分ないし平成六年分の実質事件率の平均値は〇・九三三九であって、「欠番」及び「取消し」の事件数の年間取扱事件数全体に占める割合は七パーセントに満たないこと。前示のとおり、被告が認定した原告の年間取扱事件数は、原告の本件係争各年分の事件簿に記載された受託番号から認められる原告の年間取扱事件数よりも少なくなっていることなどを勘案すると、原告の年間登録報酬額を算出するに当たって、「欠番」及び「取消し」の事件数を控除することなく、前記の被告が認定した年間取扱事件数をそのまま右算出の基礎としても、推計の合理性を欠くことにはならないものというべきである。したがって、原告の前記主張は採用することができない。

(2) 平均単価について

被告が本件訴訟において主張する平均単価の算出の経緯は、前記五2(二)(1)で認定したとおりであり、被告は、昭和六〇年分については二五八件の登記申請に係る事件から平均単価を二万五二五四円と、昭和六一年分については三三六件の登記申請に係る事件から平均単価を二万六六九七円と、昭和六二年分については三五八件の登記申請に係る事件から平均単価を三万〇一四六円と、それぞれ算出している。

しかしながら、証拠(甲一八の1ないし696、一九の1ないし4、一九の6ないし858、二〇の1ないし899、二〇の901ないし914、二一、原告本人(第二回))及び弁論の全趣旨によれば、原告の手元に残っている本件係争各年分の登記申請業務に係る領収書の控えを基に登記報酬金額等を集計すると、別表4の1ないし3記載のとおりとなることが認められ(なお、原告は、平成七年九月四日付け準備書面において、原告の手元に残っている領収書の控えに基づいて登記報酬金額等を集計した結果を主張し、さらに、同年一一月六日付け準備書面において取引事例を追加した上で、最終的に、平成八年五月二三日付け準備書面において、右登記報酬金額等の集計結果を整理して主張しているところ、右掲記の各証拠に照らし、その集計結果に誤りがあると認められる点は、別紙記載のとおりである。)これによれば、昭和六〇年分については一六三六件の登記申請に係る事件(原告の同年分の事件簿に記載された受託番号から認められる原告の年間取扱事件数全体の七二・八パーセントに当たる事件)から平均単価が一万二五六〇円と、昭和六一年分については一九七三件の登記申請に係る事件(原告の同年分の事件簿に記載された受託番号から認められる年間取扱事件数全体の七四・八パーセントに当たる事件)から平均単価が一万二七六七円と、昭和六二年分については二〇九三件の登記申請に係る事件(原告の同年分の事件簿に記載された受託番号から認められる年間取扱事件数全体の六四・七パーセントに当たる事件)から平均単価が一万三八〇八円(以下、これらの平均単価を「原告資料に基づく平均単価」という。)と、それぞれ算出されることになる(なお、原告資料に基づく平均単価は、原告が報酬を得ずに行った登記申請に係る事件も含めての平均単価である。)。

本件のように特定の年の一部の取引事例から、その年の取扱事件一件当たりの報酬金額等の平均値を求める場合には、その計算の基礎となる事件の抽出が恣意的に行われるなど特段の事情がない限りは、一般的には、その基礎となる件数が多ければ多いほど、より真実の値に近い平均値を求めることができるものである。しかして、証拠(甲二一、原告本人(第一、二回))及び弁論の全趣旨によれば、原告事務所においては、昭和六二年に元事務員が領収書の控え等の書類を持ち出し散逸させたことなどにより、本件係争各年分の領収書の控えが完全にはそろっていないことが認められ、他方、原告が前記の基礎件数の抽出を自己に有利になるように作為的に行ったことなど、その計算の合理性を疑うべき特段の事情を認めるに足りる証拠はないことからすれば、原告の本件係争各年分の事件簿に記載された受託番号から認められる年間取扱事件数全体の約六五パーセントないし約七五パーセントの事件の登記報酬金額から算定された原告資料に基づく平均単価は、被告が採用した前記の平均単価よりも、真実の平均単価に近似するものと考えるのが相当である。

この点に関連して、被告は、推計課税は実額課税が不可能な場合にやむを得ず行われるものであり、申告納税制度の下において、納税者はその所得金額の計算の基となる経済取引の実態を最もよく知っている者として、その申告の内容が正しいことを説明しなければならない立場にあることを考えると、原告は、本件係争各年分に係る原告自身の所得金額を争うには実額により反証すべきであり、原告独自の推計方法で本件各更正処分の適否を争うことは許されない旨主張する。

しかしながら、推計によって行われた更正処分の取消訴訟において、納税義務者は、課税庁の推計の合理性を争う方法として、課税庁が採用したのとは別の合理的な推計方法によれば、自己の所得金額はより少額になることを主張・立証することも許されるものというべきである。被告の右主張は採用することができない。

したがって、原告資料に基づく平均単価と比較して著しく高額な平均単価を基礎として原告の年間登記報酬金額を算定した被告の推計は合理性を欠くものといわざるを得ず、原告の年間登記報酬金額は、原告資料に基づく平均単価を基礎として算定するのが合理的というべきである。

(3) 年間登記報酬金額について

前記(1)、(2)によれば、原告の本件係争各年分の年間登記報酬金額は次のアないしウ記載のとおり算定される。

ア 昭和六〇年分 二八一四万六九六〇円

右金額は、前記(2)記載の昭和六〇年分の原告資料に基づく平均単価一万二五六〇円に前記(1)記載の被告が認定した同年分の年間取扱事件数二二四一件を乗じて得たものである。

イ 昭和六一年分 三三六一万五五一一円

右金額は、前記(2)記載の昭和六一年分の原告資料に基づく平均単価一万二七六七円に前記(1)記載の被告が認定した同年分の年間取扱事件数二六三三件を乗じて得たものである。

ウ 昭和六二年分 四四五四万四六〇八円

右金額は、前記(2)記載の昭和六二年分の原告資料に基づく平均単価一万三八〇八円に前記(1)記載の被告が認定した同年分の年間取扱事件数三二二六件を乗じて得たものである。

(4) 年間登記付随収入金額について

本件係争各年分ごとに取引事例から登記報酬金額及び登記付随収入金額を集計して、登記付随収入割合を求めた上、これを年間登記報酬金額に乗じて年間登記付随収入金額を求める被告の推計方法は、その方法自体は合理的なものと考えられる。ただし、その基礎となる数値については、右(3)で平均単価について説示したのと同様の理由から、別表4の1ないし3記載の金額を用いるのが合理的である。

この点に関し、原告は、年間登記付随収入金額の謄本等の代金等の中には、印紙代等の原告の立替金がかなり含まれており、右立替金を年間登記付随収入金額から控除すべきである旨主張するが、前記認定のとおり、原告は、謄本等の代金等を預り金と報酬部分とに明確に区分していないのであるから、かかる場合には、その受領金額全額を収入金額に計上して登記付随収入金額を推計することには合理性があるというべきである(もとより、この場合においては、印紙代等は経費となるものである。)。原告の右主張は採用することができない。

以上によれば、原告の本件係争各年分における年間登記付随収入金額は次のアないしウ記載のとおり算定される。

ア 昭和六〇年分 九二四万六二七六円

右金額は、前記(3)ア記載の昭和六〇年分の年間登記報酬金額二八一四万六九六〇円に同年分の登記付随収入割合〇・三二八五を乗じて得たものである。

イ 昭和六一年分 一一三八万八九三五円

右金額は、前記(3)イ記載の昭和六一年分の年間登記報酬金額三三六一万五五一一円に同年分の登記付随収入割合〇・三三八八を乗じて得たものである。

ウ 昭和六二年分 一五七〇万一九七四円

右金額は、前記(3)ウ記載の昭和六二年分の年間登記報酬金額四四五四万四六〇八円に同年分の登記付随収入割合〇・三五二五を乗じて得たものである。

(5) 総収入金額について

原告の本件係争各年分の総収入金額は、前記(3)記載の年間登記報酬金額と右(4)記載の年間登記付随収入金額を合算したものとなるところ、これを計算すると、次のアないしウ記載のとおりとなる。

ア 昭和六〇年分 三七三九万三二三六円

イ 昭和六一年分 四五〇〇万四四四六円

ウ 昭和六二年分 六〇二四万六五八二円

(6) 特前所得について

一定の事業を営む者がその収入を得るために要した経費を実額によって算定することができない場合において、同一地域において同種の事業を営む事業規模の類似する同業者の平均所得率で、その所得金額を推計することには合理性があるというべきである。

これを本件についてみると、証拠(乙二八ないし三三、三四ないし三六の各1ないし3、三七ないし四〇、四一の1ないし3、四二ないし四五、四六ないし五四の各1ないし3、五五ないし六八、七六の1ないし20、証人遊亀敏夫、同蛭子芳広)及び弁論の全趣旨によれば、被告は、東京国税局長が通達により関係各税務署長に該当課税事績の報告を求める方法により、東京二三区内に納税地を有する個人事業者のうち、前記第二の二5(被告の主張)(一)(2)エのaないしfの基準のすべてに該当する者を被告別表2の1ないし3記載のとおり抽出したこと、抽出された同業者には、土地家屋調査士等の兼業者は含まれていないことが認められる。

ところで、比準同業者を抽出する場合に、比準同業者の事業に係る総収入金額を当該事業者の事業に係る総収入金額の二分の一以上、二倍以下とすること(いわゆる倍半基準)は、事業規模の類似する同業者を選定する基準として客観的なものであり、合理性を有するものである。しかして、前記(5)で算定した原告の本件係争各年分の総収入金額を前提に倍半基準を適用すると、被告が抽出した同業者のうち、被告別表2の1記載のA及びD、被告別表2の2記載のD並びに被告別表2の3記載のCは、原告と事業規模が異なるものとして、比準同業者から除外すべきことになる。また、被告別表の2の1記載のF、被告別表2の2記載のG、被告別表の2の3記載のEは、特前所得率が五〇パーセントを超えるものであり、他の同業者の特前所得率と比較すると、その所得率が特に高くなっており、何らかの特殊事情がある可能性を否定できないから、平均特前所得率を算定する上では、その計算の基礎から除外するのが相当である。

そうすると、被告別表2の1記載のB、C、E、G、被告別表2の2記載のA、B、C、E、F、被告別表2の3記載のA、B、Dが本件係争各年分について比準同業者として残るところ、これらの同業者は、原告と同一の地域において司法書士業を営む者で、その事業規模が厳酷に類似している青色申告者であって、その抽出について被告の恣意が介在した余地はなく、その抽出数も同業者の個別性を平均化するに足りるものということができるから、これらの同業者の平均特前所得率、すなわち、昭和六〇年分につき三九・三〇パーセント(〇・〇一パーセント未満四捨五入。以下同じ。)、昭和六一年分につき三七・五七パーセント、昭和六二年分につき四二・二三パーセントは、その客観性、正確性及び普遍性が担保されているものというべきである。

なお、前記(5)で認定した原告の総収入金額が被告が認定した原告の総収入金額を下回る結果、前記(5)で認定した原告の総収入金額を前提とする倍半基準によれば、比準同業者として抽出されるべき者でありながら、被告の認定した総収入金額を前提とする倍半基準によっては抽出されなかったもの(昭和六〇年分を例にしていえば、総収入金額が一八六九万六六一八円以上三三七三万二九八二円未満の者)が存在する可能性は否定できないが、被告別表2の1ないし3を通覧しても、総収入金額が少なくなれば、特前所得率が低くなるという相関関係は認められないことなどに照らすと、右のような同業者が比準同業者から漏れていたとしても、前記の平均特前所得率を基礎として原告の所得金額を推計することが直ちに合理性を欠くものということはできない。

この点に関し、原告は、被告が行った経費の推計は、抽出した司法書士が他の業種を兼業しているかどうか、また事務所の所有、賃借の違い、所員の数や資格を考慮していないなど、不合理な点が多く、到底合理的な推計とはいえない旨主張するが、被告が抽出した比準同業者に土地家屋調査士等の兼業者が含まれていないことは前記認定のとおりである。また、事務所の所有、賃借の違い、所員の数や資格の違いという各事業者の個別の事情は、前記同業者の平均特前所得率の中に吸収捨象されるというべきであり、比準同業者の抽出に当たってこれらの事情を考慮しなくとも、右平均特前所得率により所得金額を推計することが合理性を欠くということはできない。したがって、原告の右主張は採用することができない。

以上によれば、原告の本件係争各年分の特前所得金額は次のとおり算定される。

ア 昭和六〇年分 一四六九万五五四一円

右金額は、前記(5)記載の昭和六〇年分の総収入金額三七三九万三二三六円に同年分の比準同業者の平均特前所得率三九・三〇パーセントを乗じて得たものである(一円未満切捨て。以下同じ。)。

イ 昭和六一年分 一六九〇万八一七〇円

右金額は、前記(5)記載の昭和六一年分の総収入金額四五〇〇万四四四六円に同年分の比準同業者の平均特前所得率三七・五七パーセントを乗じて得たものである。

ウ 昭和六二年分 二五四四万二一三一円

右金額は、前記(5)記載の昭和六二年分の総収入金額六〇二四万六五八二円に同年分の比準同業者の平均特前所得率四二・二三パーセントを乗じて得たものである。

(7) 事業所得の金額

和枝に係る事業専従者控除額が昭和六一年分につき四五万円、昭和六二年分につき六〇万円となることについては、当事者間に争いがないから、本件係争各年分の事業所得の金額は、次のとおり算定される。

ア 昭和六〇年分 一四六九万五五四一円

右金額は、前記(6)記載の昭和六〇年分の特前所得金額一四六九万五五四一円と同額である。

イ 昭和六一年分 一六四五万八一七〇円

右金額は、前記(6)記載の昭和六一年分の特前所得金額一六九〇万八一七〇円から同年分の事業専従者控除額四五万円を控除したものである。

ウ 昭和六二年分 二四八四万二一三一円

右金額は、前記(6)記載の昭和六二年分の特前所得金額二五四四万二一三一円から同年分の事業専従者控除額六〇万円を控除したものである。

3  以上のとおり、原告の本件係争各年分の事業所得の金額は、昭和六〇年分が一四六九万五五四一円、昭和六一年分が一六四五万八一七〇円、昭和六二年分が二四八四万二一三一円とそれぞれ推計するのが合理的というべきところ、原告は、前記第二の二5(原告の主張)(二)(1)記載のとおり、原告の独自の推計方法によると、原告の本件係争各年分の事業所得の金額は、昭和六〇年分が一二三五万〇七一〇円、昭和六一年分が一四五三万五八六二円、昭和六二年分が二二〇三万六五六二円となる旨主張する。

しかしながら、原告の主張する推計方法が、少なくとも、年間取扱事件数の算定方法、年間登記付随収入金額の算定方法において必ずしも合理的とはいえないことは、前記2(三)(1)及び(4)に説示したとおりであって、原告の推計する右の事業所得の金額が、前記2において当裁判所が推計した事業所得の金額よりも、原告の本件係争各年分の真実の事業所得の金額に近似するということはできない。

本件において、他に右裁判所の推計の合理性を疑わせる事情は認められない。

七  本件各更正処分等の適否

1  右六で推計した原告の本件係争各年分の事業所得の金額と、当事者間に争いがない本件係争各年分の利子所得の金額(昭和六〇年分が一三万円、昭和六一年分が一二万円、昭和六二年分が二〇万円)を合算すると、本件係争各年分の総所得金額は、昭和六〇年分が一四八二万五五四一円、昭和六一年分が一六五七万八一七〇円、昭和六二年分が二五〇四万二一三一円となる。

2  そうすると、昭和六〇年分更正処分のうち総所得金額が一四八二万五五四一円を超える部分、昭和六一年分更正処分のうち総所得金額が一六五七万八一七〇円を超える部分及び昭和六二年分更正処分のうち総所得金額が二五〇四万二一三一円を超える部分は、いずれも原告の所得を過大に認定したものであるから違法であり、また、本件各賦課決定処分のうち、右各総所得金額を超える部分に対応する部分は違法である。

第四結論

よって、原告の本件各請求は、昭和六〇年分更正処分のうち総所得金額が一四八二万五五四一円を超える部分、昭和六一年分更正処分のうち総所得金額が一六五七万八一七〇円を超える部分及び昭和六二年分更正処分のうち総所得金額が二五〇四万二一三一円を超える部分並びに本件各賦課決定処分のうち、右各総所得金額を超える部分に対応する部分の取消しを求める限度で理由があるから、これを認容し、その余は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条、六四条本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 青栁馨 裁判官 増田稔 裁判官 篠田賢治)

別表 一

昭和六〇年分 課税処分等の経緯

〈省略〉

別表 二

昭和六一年分 課税処分等の経緯

〈省略〉

別表 三

昭和六二年分 課税処分等の経緯

〈省略〉

別表4の1

昭和60年分登記報酬金額等集計表

〈省略〉

別表4の2

昭和61年分登記報酬金額等集計表

〈省略〉

別表4の3

昭和62年分登記報酬金額等集計表

〈省略〉

原告別表

事件平均単価、総収入額及び事業所得額の計算表

計算の基本

〈1〉 昭和60~62年の原告の取扱事件数―被告主張の事件数とする。

〈2〉 そこから欠番、取下げ数を除いて、実質事件数を出す(平成4~6年分の平均実質事件数の割合を使用。

〈3〉 原告の手元に残っている領収書の控えによる報酬等の総収入額を計算する。この場合、「謄本等」に含まれる立替え印紙代を除いて計算する。

〈4〉 原告の手元に残っている領収書の控えの事件数で報酬等の総収入額を割って実際の事件の平均単価を算出する。

〈5〉 前記実質事件数×事件平均単価で各年分の総収入額を出す。

〈6〉 被告主張の所得率で事業所得額を計算する。

Ⅰ 昭和60年分

〈1〉 事件数 2241件

〈2〉 平成4~6年の欠番、取下げ数を除いた実質事件数割合による実質事件数の推計0.9339×2241件=2092.86で2093件とすべき

〈3〉 領収書の控えによる報酬等の総額(ただし、謄本等に含む立替え印紙代を差し引く)

昭和60年分の収入額は、

報酬 2052万2150円

旅費 280万0200円

謄本等 332万3540円

(ただし、立替え印紙代を差し引いた実質的報酬は69万7943円)

立会料 38万5000円

その他 21万0930円

以上のうち実質的報酬額の合計は2461万6223円

〈4〉 事件平均単価

昭和60年分の事件数 1634件

前記実質的報酬額合計 2461万6223円

事件平均単価

2461万6223円÷1634件=1万5065円

〈5〉 総収入額

前記事件平均単価1万5065円×実質事件数2093件=3153万1045円

〈6〉 経費を被告主張どおりとした場合の所得率と事業所得額

所得率 0.3917

事業所得額

3153万1045円×0.3917=1235万0710円

利子所得13万円を入れても

1235万0710円+13万円=1248万0710円

Ⅱ 昭和61年分

〈1〉 事件数 2633件

〈2〉 平成4~6年の欠番、取下げ数を除いた実質事件数割合による実質事件数の推計0.9339×2633件=2458.95で2459件とすべき

〈3〉 領収書の控えによる報酬等の総額(ただし、謄本等に含む立替え印紙代を差し引く)

昭和61年分の収入額は、

報酬 2516万6000円

旅費 302万1100円

謄本等 425万7510円

(ただし、立替え印紙代を差し引いた実質的報酬は89万0771円)

立会料 92万2700円

その他 32万4300円

以上のうち実質的報酬額の合計は3032万4871円

〈4〉 事件平均単価

昭和61年分の事件数 1975件

前記実質的報酬額合計 3032万4871円

事件平均単価

3032万4871円÷1975件=1万5354円

〈5〉 総収入額

前記事件平均単価1万5354円×実質事件数2459件=3775万5486円

〈6〉 経費を被告主張どおりとした場合の所得率と事業所得額

所得率 0.385

事業所得額

3775万5486円×0.385=1453万5862円

利子所得12万円と譲渡所得59万円を入れても

1453万5862円+12万円+59万円=1524万5862円

Ⅲ 昭和62年分

〈1〉 事件数 3226件

〈2〉 平成4~6年の欠番、取下げ数を除いた実質事件割合による実質事件数の推計0.9339×3226件=3012.76で3013件とすべき

〈3〉 領収書の控えによる報酬等の総額(ただし、謄本等に含む立替え印紙代を差し引く)

昭和62年分の収入額は、

報酬 2889万6150円

旅費 356万8700円

謄本等 489万6060円

(ただし、立替え印紙代を差し引いた実質的報酬は102万8172円)

立会料 162万2060円

その他 10万1600円

以上のうち実質的報酬額の合計は3521万6682円

〈4〉 事件平均単価

昭和62年分の事件数 2093件

前記実質的報酬額合計 3521万6682円

事件平均単価

3521万6682円÷2093件=1万6825円

〈5〉 総収入額

前記事件平均単価1万6825円×実質事件数3013件=5069万3725円

〈6〉 経費を被告主張どおりとした場合の所得率と事業所得額

所得率 0.4347

事業所得額

5069万3725円×0.4347=2203万6562円

利子所得20万円を入れても

2203万6562円+20万円=2223万6562円

別紙

第1 昭和60年分について

1 甲18の467に係る抹消登記1件(報酬額零円)が原告の集計から漏れているので、これを加算する(原告の平成7年9月4日付け準備書面添付の別表60―30のNo.1189ないしNo.1193参照)。

2 同準備書面添付の別表60―30のNo.1194の中江武の抹消登記についは、原告の集計によれば、「抹消登記・報酬額6200円、その他400円」とされているが、甲18の468によれば、「売買・報酬額1万5000円、売買・報酬額1万5000円、立会料2万円、謄本等の代金9600円」と認められる。

3 同準備書面添付の別表60―40のNo.1587のパナールイオン株式会社の役員変更登記については、原告の集計によれば、「報酬額5500円」とされているが、甲18の680によれば、「報酬額7000円」と認められる。

(まとめ)

以上により、原告の集計による事件数に2件加算し、報酬額に2万5300円加算し、謄本等の代金に9600円加算し、立会料に2万円加算し、その他から400円減算する。

第2 昭和61年分について

1 原告の平成7年9月4日付け準備書面添付の別表61―6のNo.229の日本不動産ローン株式会社の根抵当権設定登記については、原告の集計によれば、「報酬額2万6000円」とされているが、甲19の94によれば、「報酬額2万6600円」と認められる。

2 同準備書面添付の別表61―32のNo.1278の原田順子の抹消登記(報酬額6900円、謄本等の代金3000円、その他4000円)の存在は認められない(甲19の575参照)。

3 同準備書面添付の別表61―49のNo.1932、No.1933の高橋清明の抵当権設定登記2件(報酬額零円)の存在は認められない(同準備書面添付の別表61―30のNo.1191ないし1193、甲19の538参照)。

4 原告の平成7年11月6日付け準備書面添付の別表61―51のNo.1970の江里口清司については、原告の集計によれば、「売買・報酬額2万3500円、謄本等の代金8600円、立会料2万5000円」とされているが、甲19の852によれば、「売買・報酬額2万3500円、抵当権設定・報酬額2万9800円、謄本の代金8600円、立会料3万8000円」と認められる。

(まとめ)

以上により、原告の集計による事件数から2件減算し、報酬額に2万3500円加算し、謄本等の代金から3000減算し、立会料に1万3000円加算し、その他から400円減算する。

第3 昭和62年分について

1 原告の平成7年9月4日付け準備書面添付の別表62―47のNo.2496の大島輝興、昌代の抵当権設定登記については、原告の集計によれば、「報酬額1万5500円」とされているが、甲20の696によれば、「報酬額1万5800円」と認められる。

2 同準備書面添付の別表62―55のNo.2742の嶋田ふちの抹消登記についは、原告の集計によれば、「報酬額6000円」とされているが、甲20の825によれば、「報酬額6800円」と認められる。

3 同準備書面添付の別表62―59のNo.2879の株式会社エス飛鳥ホームの売買による所有権移転登記については、原告の集計によれば、「報酬額1万2500円」とされているが、甲20の892によれば、「報酬額1万4500円」と認められる。

(まとめ)

以上により、原告の集計による報酬額に3100円加算する。

被告別表1の1 昭和60年分総収入金額計算表

〈省略〉

被告別表1の2 昭和61年分総収入金額計算表

〈省略〉

被告別表1の3 昭和62年分総収入金額計算表

〈省略〉

被告別表2の1

昭和60年分同業者率算定表

〈省略〉

被告別表2の2

昭和61年分同業者率算定表

〈省略〉

被告別表2の3

昭和62年分同業者率算定表

〈省略〉

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